反社会学講座(★9点)

反社会学講座 (ちくま文庫)

反社会学講座 (ちくま文庫)

とにかく面白い本。文体が読んでいて気持ちいい。
面白くモノを見せる力はどんな場面においても必要です。私は大学院生ですが、面白くモノを見せれば、内容が多少アレでもよく見え、ひとの心をつかむことができるのです。そんな面白さを持っているこの本。

「反社会学」と書いてありますが、要するに社会学の本です。現状の社会学はおかしいと社会学的な視点から少子化や少年犯罪などを取り上げています。
単に面白いだけでなく、データをきちんと取り上げて考察しているので納得できる。近年少年犯罪が急増したわけではないというのは知っていたけど、改めてデータを見ると昭和30年代ってひどかったのね。

社会学は社会科学に含まれますが、どうしても自然科学と異なり、「AはBである」という学説を確立させることが難しいです。世の中にはいろんな考え方のひとがいますからね。だからこじつけとしか思えないようなところが出てくる。多かれ少なかれ、こじつけはあるものです。ただ、意固地になってはいけない。そんな意固地なところを切り崩しているのがこの本の共感できるところ。
無理だということは承知しながらも、あくまでフェアに、都合の悪い事実にも目を向けていかなきゃね。職業的な研究者のひとは成果をどんどん発表していかなきゃいけないからそうも言ってられないんだろうけど。

面白いんですが、減点となった理由は著者の匿名性。著者はネットに対する批判を少し交えて文章を進めているんですが、ネットの利点である匿名性を自身が利用しているのは矛盾しているんじゃないのか。というわけで減点。パオロ・マッツァリーノさんのネタでないプロフィールの公開を望みます。