都市ってなんでしょうね
- 作者: 五十嵐太郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2006/10/01
- メディア: 新書
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とにかく、「美観」「美しい景観」というものを推し進める力に対しての反発がいい。日本橋の首都高速埋設に関してはその裏に潜む欲望を見事にすっぱ抜いていると思う。結局のところは経済なんですよね。しかし、5000億円もかかるのかよ... それで儲かるのが三井不動産だけというのも残念な話だ。オフィスは集積するのかなあ。
あと、若い論客として、年寄りの意見に対しても異議を申し立てていて、それも納得いく。主に批判しているのは伊藤滋という「美しい景観を作る会」の代表。この「美しい景観を作る会」は「悪い景観百景」というのをサイト上で公開しているんだけど、五十嵐が言うようにやはりシドイ...
この会のメンバーは伊藤以外には日建設計の顧問や日本都市計画学会の元会長といった錚々たる面子がそろっているにも関わらず、「悪い景観」の説明があまりにチープ。
- 「これが首都東京か」と思われる“経済大国”の家並。(五反田を過ぎたあたり)
- 戸建て住宅の続く中に唐突なマンションの高さでスカイラインは切れ切れに・・・。(京都から大阪に至る住宅街)
- 安っぽい色がカラフルに混ざり込んで夜景を台無しにする。(下品な会社ほど赤色を使う)
などなど。とくに最後のやつなんか最悪。「下品な会社ほど赤色を使う」というんだったら、JR九州や三菱東京UFJ、もっと言えば日の丸も下品だとでも言いたいのか? ご立派な専門家なんだからもっときちんとした説明ができるだろう。
文章ではたくさんの人間の主張が引用され、五十嵐が多くの書に目を通しているかがわかり、これはすごいことだと思う。あと、「スワロウテイル」など、映像作品に描き出される都市についても言及があり、新しい都市論を提唱しようとしているんだということが感じられる。これを読んで、「スワロウテイル」を見てみたくなった。今までは「あいのうた」しか知らなかったからな(笑
面白い本なのだが、五十嵐にとって良い景観が何かということについてわからないのが残念。伊豆下田にある南豆製氷所の保存に取り組んでいるということだが、どうしてこれを保存しなければならないのかということについての言及が足りない。確かにものめずらしい建築だとは思うけどね。建築史を学んだ人にはもっと価値が分かるんだろうか?
一応「街づくり論」をやっているものとして、都市について言いたいことはいろいろありますが、それは別項で。